第36回 三重楼閣の話


 むかし、とあるインドの富豪が友人の屋敷に招待されました。

その友人の家は三階建ての家で、とても素晴らしい眺めを持っていました。

 

「ほう、この三階からの眺めは見事ですなあ」

 

「世間広しといえども、わざわざ三階建ての家を建てるのは、私くらいのものでしょう。わっはっはっは」

 

友人をうらやましく思った富豪は、自分もあのような三階を手に入れることは出来ないだろうかと考えました。

 

「三階…三階が欲しい…」

 

悩む富豪は町の大工に相談します。

 

「どうにかして友人と同じような三階は作れないだろうか?」

 

「もちろん可能ですよ。そもそも、あのお方の屋敷は私が設計したものです」

 

「なに! それは本当かね! では一刻も早く私の為に、あのような眺めの良い三階を造ってくれ!」

 

富豪は大工の言葉を聞きとても喜びました。

 

それから数週間後、家の建築現場に富豪がやってきました。

 

「どうだい、大工さん。そろそろ完成しそうかね?」

 

「今ちょうど一階の部分が完成したところです。次は二階の工事にとりかかる予定ですね」

 

大工さんのその言葉を聞いて、富豪は怒りだしました。

 

「なんだって!? おい、よく聞け! 私はとにかく三階が欲しいのだ! 一階も二階も必要ない! いますぐ三階だけを造ってくれ!」

 

それを聞いて大工は笑い出しました。

 

「こら! 何がおかしい!」

 

「いや、失礼。ではまず空中に家を建てる方法を教えていただけませんか?」

 

………

……

 

一階も二階もいらない、私は三階が欲しいのだ!』こう言った富豪を、私たちは簡単に笑うことが出来るでしょうか? 一階二階と土台を無視し、三階という結果だけを求めてしまう。気づかぬうちに、そういう思考に捕らわれていませんか?

 

この話の“三階”は、仏教の“さとり”を例えたものだそうです。“さとり”という結果だけを見て、そこにいたるまでの修行の日々、経過をおろそかにしていた弟子達に向けて、お釈迦さまがお話した話だそうです。

 

努力もせず、ただ“さとり”だけを求めても、空中に三階を建てようとするものだ』と、この話は教えてくれているのです。

 

これはさとり修行だけに当てはまる話ではありません。現代の私たちの生活でも、勉強にしろ、仕事にしろ、一つ一つ、着実に積み上げていくことが大切なのです。

 

いきなり三階を造ろうとせず、まずは土台、一階二階と、焦らずに、少しづつ、少しづつ、しっかり積み上げていきましょう。

 

急いで急に解決しようとしても上手くはいきません。

 

今の自分に必要なモノを、しっかりと見極めるのです。

 

 

 

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参考文献

帰り道で話そうよ

東本願寺出版 (2021/4/1)

花園一実(著)織田顕祐(監修)

木村二三夫(イラスト)

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