第26回 不飲酒戒の話


仏教には五戒(ごかい)と呼ばれる、5つの戒があります。

 

不殺生戒(ふせっしょうかい)、

不偸盗戒(ふちゅうとうかい)、

不邪婬戒(ふじゃいんかい)、

不妄語戒(ふもうごかい)、

不飲酒戒(ふおんじゅかい)の5つです。

 

今回はその中の「不飲酒戒(酒を飲まないこと)」のお話を、させていただきます。

 

 

 

あるところに、とても真面目な修行者がいました。

 

ある日、友人が遠方から訪ねてきて、家に泊まることになりました。

泊まった次の日、友人は町へ用事があると、1人で出掛けました。

 

修行者は残された友人の荷物の中に、妙な壺があるのを見つけます。

 

気になって、ふと、センをはずしてみると、中からとても芳醇で、良い香りがするではないですか。

 

修行者はその香りに誘われて、ちょっとだけ中身を嘗めてみました。

 

とても甘い。

 

おいしい。

 

ついつい、ちょいと、嘗めて飲んでをするうちに、すっかり好い気分になって、酔っぱらってしまいました

 

壺の中身はお酒だったのです。

 

そこへ、隣家のにわとりが、垣根を越えて入ってきました。修行者はふらっと立ち上がって、その首をギュッっと、しめて、殺してしまいました。

 

しばらくすると、こんどは、隣家の娘がウロウロと、にわとりを探してやって来ます。修行者は、その娘を家の中に誘い込んで、とうとう、乱暴してしまいました。

 

気づいた娘の親が官(警察)に通報して、修行者は役所(警察署)に連行されます。取り調べを受ける修行者ですが、「知らぬ、存ぜぬ」と、どうしても白状しませんでした。

 

 

この修行者は、これでついに、五戒のすべてを、犯したことになりました。

 

第1に不飲酒戒を、

第2に不偸盗戒を、

第3に不殺生戒を、

第4に不邪婬戒を、

第5に不妄語戒をーー

 

この真面目な修行者が、どうしてこんな大罪を犯すにいたったかといえば、酒を飲んでしまったからとなるでしょう。

 

 

このように経典には、酒がいかに、個人にとっても、社会にとっても、有害であるかを、懇切丁寧に戒めてあるのです。

 

しかし、酒に全ての罪があるわけではありませんし、酒だけが人間を酔わす悪いものというわけでもありません

 

酒を飲まなければ良いのなら、麻薬で酔っぱらうのは良いのでしょうか? 

脱法ドラッグで酔っぱらうのは良いのでしょうか?

 

酒ではないので、不飲酒戒に入らないのでしょうか?

 

逆にアルコール度数の少ないお酒はどうなるのでしょうか?

 

お酒の入ったお菓子は? 

甘酒は?

 

料理にお酒を使うものはいくらでもありますし、アルコールさえ飛んでいればOKなのでしょうか?

 

アルコールが入っていなくても、酒と名がつけばアウトなのでしょうか?

 

逆に酒と名がつかない、般若湯ならセーフなのでしょうか?

 

そもそもアルコールで酔っぱらうのではなく、アルコールを分解する時に出る、アセトアルデヒドが有害なのであって、体質差もあり、酔う人、酔わない人がいて、アルコール自体に罪があるのか?ないのか?どうなのか……?……?

 

このややこしい疑問の答えとして、山田無文老師は著書の中でこう示されています。

 

『酒のために正気をうしない、家庭や社会に、害毒を流し、ついには身を亡ぼしてしまうことを、如来は、ひとしお不憫に思われて、「酒を飲むな」と、きびしく戒められたのであります。

 

そこで、飲まれるというだんになれば、ただ、酒ばかりではありません

 

われわれはじつに、いろいろなものに飲まれ、酔い狂うて、はたから見る目も、おかしいほど盲目的になり、無自覚になるものであります。

 

色欲に飲まれ財欲に飲まれ空想に飲まれ名誉心に酔い文学に酔い哲学に酔い思想に酔い神や仏にさえ酔うていっさいの自主性をうしなってしまうのであります

 

そして、正しい理性と判断を、失くしてしまうのであります

 

大乗仏教では、広い意味において、これらの泥酔者を、すべて不飲酒戒を犯すものと申すのであります。』

 

 

酒でも何でも酔っぱらってはいけないのです。

 

酒は飲んでも飲まれるな

 

酒を飲まなくても、酔っぱらうことはあるのだと知りましょう。

 

自分に酔っていませんか?

思想に酔っていませんか?

欲望に酔っていませんか?

快楽に酔っていませんか?

 

仏教の戒は、「絶対に酒を飲むな」と言っているわけではありません。

現在はストレス社会です。たまに気分転換に飲む分は良いでしょう。

 

しかし、酔っぱらわないようにしなくてはいけません。

 

酒を飲もうが飲むまいが、「前後不覚に酔っぱらって、仏さまの教えを忘れないようにしなさい」と、不飲酒戒は戒めているのです。

 

『あらゆるものに』対して、酔わないように、酔いすぎないように、気をつけていきましょう。

 

 

 

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参考文献

無文老師の三分法話(第3巻)

同朋舎 (1982/7/1)

山田無文(著)

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